2022年度 海外研修セミナーⅠ 授業紹介

「国教を持つ複合民族国家マレーシアと経済、イスラム金融基礎を学ぶ」

吉澤 直美さん イブニングコース2年

吉澤 直美さん

2030年、イスラム教徒は世界総人口比の26.4%に達する見込みであり、2070年にはキリスト教徒に並んで世界で最も信者数が多い宗教になるという調査があります。そういった世界情勢の中、私の所属組織が新たにアジア全域にその活動を拡大することを機に、イスラム教徒の多いマレーシアについて学びたいと考えたことから本海外研修セミナーを履修しました。コロナ禍の影響で残念ながら現地訪問や諸先生方と対面でご講義を受けることは叶いませんでしたが、導入から終了まで一貫して体系立った市野先生の本カリキュラムは履修当初の私の期待を遥かに超えた学びを授けてくれました。

イスラムとは何か、マレーシアの成り立ちからなる文化と同国のブミプトラ政策、そしてイスラム金融など、私がこれまでに触れてきた理解の守備範囲が狭かったことに気付くまでに時間はかかりませんでした。SaLaM (サラーム) という、平和を意味しイスラムの人を幸せにする5文字は、イスラム教徒の生活だけでなく社会経済活動の根幹です。マラヤ大学ビジネススクールのMohd Edil准教授は、マレーシアの資本市場と、イスラム教徒の良心とイスラム教に反しない方法で取引が行われるIslamic Capital Marketというイスラム資本市場をご指南下さいました。それは現在、イスラムのシャリア原則に基づく取引を希望する人々の投資や資金調達のニーズを満たし、イスラム金融ビジネス誘致のための戦略的施策として世界中の新しいプレイヤーが次々に参入しているものです。グローバルで拡大するイスラム教徒の数の見込みを見れば、この市場が大きな可能性を含有しているのがわかります。そのイスラム金融は、教義に基づき利潤の追求を目的としないながらも代替の概念があり、また、公平を保つための形態など、多くのスキームや金融商品があります。イスラム金融市場やイスラム消費経済への参入は、しっかりとその宗旨を遵守する覚悟が必要であることも認識できました。

2017年にABSで海外教員招聘講座の講師も務められたというWan Jamaliah博士からは、イスラム人口最大の国はインドに続きインドネシア、パキスタンだが、マレーシアは世界イスラム経済指標で81位カ国・地域で総合首位であることを伺いました。同国の安定的で流動性が高い債券市場はGDPとほぼ同じ規模であり、アジアでは日本、韓国に次いで3番目に大きい。IT分野でもマレーシアは2021年3月時点、世界総数161社のうち21社のイスラムフィンテックプロバイダーが存在する、有望なイスラムフィンテック市場でもあります。これらよりもマレーシアの資本市場は魅力があり、グローバル社会でも高く評価されていることがわかります。

マレーシアのデジタル化も盛んでした。マラヤ大学ビジネススクールのChe Ruhana教授は、マレーシアは国をあげて成功のためのイノベーションへの投資と取組みを行っていると紹介して下さいました。日本以上にキャッシュレスビジネスが進んでいることを、現在マレーシア在住・勤務の日本人ゲストスピーカーからも伺いました。日本の乱立するそのサービスと比べ、マレーシアの同ビジネスは交通系の統一したサービスを国民が使用しています。これは宗教に基づくのか、或いは日本はサービス参入における産業の幅があるからなのか。比較文化の観点から共通点や相違を見分け、自身の世界観を広げるために"楽しみをとっておく"という知的探究心もいただけました。

この国のコーポレート・ガバナンスはイギリス発祥のそれとイスラムとが融合した形でした。マレーシア・イスラム科学大学のDato’ Mustafa教授は、公平さを保つためにシャリア原則に基づいたそのフレームワークは、イスラム金融機関の経営トップがステークホルダーや神に対して説明責任を果たすための正式なシステムであることを教えて下さいました。大変興味深かったのは、仮想通貨やブロックチェーンによる市場は不確実性が高いものであり、イスラム金融には不適格であるとMustafa先生が考えていらしたことです。IT化がさらに進んでゆく中、イスラム教でこの見解がどのようになるのかを引き続き注視してゆきたいと思います。

揺るがない教義を軸としたマレーシアの国教とその社会・経済活動。国の歴史や文化、社会的背景、政策、イスラム金融を正しく理解した上ではないと、経済成長が加速しているマレーシアでコミュニケーションを、そしてビジネスを共に進めることはできません。このセミナーを通して私はそれを痛感し、自身のビジネスを進めてゆく上で同国だけでなく他諸国に対しても同様の学びをすべきであることを心に刻みました。あらゆる面で多くの気付きを与えてくれた本プログラムに心から感謝しています。

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