2020.09.07

中野 勉教授が科学研究費・基盤研究(C)を取得

中野 勉教授

中野 勉教授

中野勉教授(研究代表者)が科学研究費・基盤研究(C)を取得しました。

研究課題は『プラグマティックな価値評価と市場メカニズム―遂行性とネットワーク分析による実証』、研究期間は4年間です。

研究概要:
本研究は、欧米の経済社会学分野で研究が進む遂行性(performativity)の概念から、市場のダイナミクスに関する実証研究を行い、その理論化への貢献を試みるものである。具体的には、市場における商品やサービスの価値を、売り手と買い手の間の需要と供給から考える伝 統的な計量経済学からのモデルや、会計学分野で、従来の経済的な生産のコストから価値を考える原価計算の考え方に対し、この「プラグマティックな価値評価」(pragmatic valuation)によるアプローチでは、消費者を含めた買い手が、アクターとして、経験と知識に基づきオブジェクトの評価を行うことに視点を移す。アクターとオブジェクトのインタラクションの プロセスとして、需要サイドからの実践的なニーズについて、マイクロ・レベルでの斬新な 視点から、詳細な定性的な分析を可能にする。また、その価値を作り出し、市場が形成されるプロセスに関して、媒介者を含めた、ネットワークを通じた様々なアクターとしてのステークホルダー間の競争と協調による「価値の安定化」(valorization)が行われることで、市場は動態的に形成されていると概念化し、関係性の視点からの市場の分析を可能にする。

本研究は、このようにプラグマティズムとネットワーク分析を、遂行性の概念から統合的に応用することで、市場のメカニズムの実証と理論化を考察する日本で初めての野心的な研究である。組織論の視点からは、経済学からの伝統が、モノ自体の価値を考察し、市場を効率性、即ち、需給の均衡と概念化するのに対し、本研究では、マイクロ・レベルから、人とモノやサービスとのインタラクションをネットワークと捉え、複雑なアクター、エージェント、オブジェクト間の関係性をから、製品が認知・正統化され、マクロ・レベルでの社会的な合意に 至る戦略的なプロセスとして捉えることで、市場の形成をフィールドワークと動態的なネットワーク分析から解明する試みである。特に、市場価値の意味が問われる、クリエイティブ・インダストリーにおけるアクターのモノやサービスへの愛着や依存(human attachments to objects)などに焦点を当てることで、プラグマティズムの実践哲学と認知の組織化の意味を市場の関係性のダイナミクスから問うものでもある。

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