
溝口 彰男さん(2024年度イブニングコース入学/パナソニック株式会社 勤務)
本科目を履修したのは、企業をより多面的に捉える視点を身につけたいと考えたからです。これまで事業や競争環境を分析する経験はありましたが、株主視点や企業価値評価、すなわちコーポレートファイナンスの視点から企業を捉える経験はありませんでした。企業を運営する側だけでなく、評価する側の論理を理解することが、自身の思考の幅を広げると考えました。
青山アクション・ラーニングの中で唯一の通期科目である本授業は、腰を据えて取り組める点が大きな特徴です。テーマ設定から銘柄抽出、ウェイト設計、運用方針の構築に至るまで、ABSで学んできた知識だけでなく、これまでの社会人経験も組み合わせながら、何度も検討と修正を重ねました。独自性を追求するあまり手法の複雑化に傾いたこともありましたが、議論を重ねる中で、重要なのは複雑さそのものではなく、構造の明確さやストーリーの一貫性であると気づきました。理論的に整合していることと、他者に伝わり納得を得られることは必ずしも一致しません。手法を目的化するのではなく、ファンドの思想を伝えるために必要なものを選び取る姿勢へと軌道修正していきました。
1年間を通じて取り組めたからこそ、試行錯誤を積み重ねる時間がありました。財務分析や理論株価の算定など定量的な検証を重ねる中で、「数字だけで企業の本質を語れるのか」という疑問も芽生えました。その問いに向き合う中で、私たちは実際に企業を訪問し、現場の声に触れる機会を得ました。組織の雰囲気や社員の姿勢、事業に向き合う熱量は、公開情報や財務データだけでは把握しきれないものでした。企業ごとに文化や意思決定の前提が異なることを体感することで、自社の「当たり前」を俯瞰して捉える視点が広がったと感じています。
分析を深めれば深めるほど、商売は人と人との営みであるという本質に立ち返ります。経営理論や企業価値評価は不可欠な枠組みですが、企業と顧客、経営者と社員、株主と企業といった関係性の中で実際に意思決定を行い、価値を生み出しているのは人です。数値の背後にある人の存在を意識し、理論と現場、技術と人を往復しながら捉えることで、企業分析はより立体的で実践的なものになると感じました。この往復の視点は、今後も大切にしていきたいと考えています。
また、本科目では個々の強みを持ち寄り、グループとしてより高みを目指す経験もできました。数式やデータ分析に強みを持つ者、構想を整理し言語化する者、検証を粘り強く担う者など、それぞれの役割が自然と形づくられ、議論を重ねながら一つのファンドを作り上げていきました。自由度が高い分、選択肢は無数に存在し、悩みや負荷も少なくありませんでしたが、最終的に一つの形に練り上げ、最終発表を終えたときの達成感は格別であり、一連の取組みは大きな自信となりました。
本科目は、ABSで得た知識を実践知へと昇華させる集大成の場であったと感じています。企業価値を多面的に捉え、データから有意な示唆を導き出し、理論と現場の双方を踏まえながら意思決定へと落とし込む経験は、投資に限らず、今後の戦略立案や組織運営においても、確かな判断軸として活かせるものだという手応えを感じています。今後はこの視点を基盤として、より本質的な価値創造につながる判断に活かしていきたいと考えています。