博士課程の森川美幸さんがAcademy of Marketing Conferenceで研究発表

博士課程の森川美幸さんがAcademy of Marketing Conferenceで研究発表しました。

2015年7月6~9日にアイルランドのリムリック大学で開催されたAcademy of Marketing Conference
AM2015 –The Magic in Marketing- & Doctoral Colloquiumで、博士課程2年の森川美幸さんが、 Factors affecting product placement in animated films: Practitioner research for unpaid product placement issues というテーマで研究発表を行いました。

海外カンファレンスにて研究発表
Academy of Marketing Conference
AM2015 –The Magic in Marketing- & Doctoral Colloquium
(2015年7月6~9日 @リムリック大学, アイルランド) 参加レポート

ABS博士課程2年 森川 美幸
発表論題: Factors affecting product placement in animated films: Practitioner research for unpaid product placement issues.

研究を始めたら、出口を作らなくてはならない。もちろん最終的には博士論文。博士課程の学生にとって学位請求のための必須任務だ。しかしそこに辿り着くまでに、ジャーナルへの投稿や学会発表という出口を作るのが、研究をまじめにやっている者の、いわば使命であると言っていい。これは主査であり、私の投稿論文の共著者でもある細田高道教授の教えである。そしてジャーナルなら当然海外のジャーナル、学会なら海外のカンファレンスを目指すのが、私の中に刷りこまれた暗黙のマスト事項であった。
 今回、Academy of Marketingのカンファレンス 【AM2015】に参加するまでに、私はコツコツと論文を書き、“出口”の確保に勤しんできた。英国の学術誌であるThe Marketing Review誌に論文が受理されたことがはげみになり、その内容をベースに新たな論文を書き上げた。そして2015年春、オーラルセッションへの応募論文がアクセプトされ、初めて海外のマーケティング学会に参加することになったのだ。

それにしてもアイルランドは遠かった。アイルランドに着いてからも、学会が行われるリムリックまでは首都ダブリンからさらに長距離バスで2時間半もかかる。トータルで片道20時間以上にも及ぶ行程。細田先生からは予言のように、「日本から来たと言ったら、みんなにびっくりされるよ」と言われていたが、果たしてまさにその通りであった。今回のカンファレンスで行われた発表は計約380(!)。そのうち日本からプレゼンに来ていたのは私ひとりだったのだ。殆どはイギリスまたは欧州の大学からの参加で、アジア人は多くいたが皆欧州の大学に留学中の学生か教員であった。

遠路はるばるやってきた奇特な(?)人物として、友達を作るチャンスには恵まれた。日本から来たと言うととにかく驚かれ、興味を持ってもらえる。初日にDoctoral Colloquiumに参加したことも大きかった。運良く学会が提供している奨学金を受けることができ、無料で欧州各地から集まったPhDの学生たちの輪に加わることができたのだ。私はメイン・カンファレンスで発表を行うことになっていたので、Doctoral Colloquiumでは他の学生たちの発表を聞くことに集中した。多くは研究計画書のプレゼンテーションだった。発表1件につき3人のメンターが付き、あらゆる角度から計画内容に突っ込みが入る。「はっきり言ってこれは研究にならない。考え直した方がいい」といった手厳しい発言もあった。ここでの発表は、博士課程の学生にとって、まさに修行の場だと唸らされた。メンターたちの中には有名なジャーナルのレビュアーをしている先生もおられ、自分の研究が世界レベルのものになるかどうかを試す場としても非常に有効であると感じた。

また、イギリスの大学から来た3人の教授のレクチャー&ワークショップも素晴らしかった。殊にバース大学のアヴィ・シャンカール教授による“Making a Contribution”と題したワークショップはとても有益であった。研究において貢献とは何であるか、どうやって貢献を作るか、ということを6つのステップに分け、わかりやすく説明して下さったのである。研究を進めていると理論貢献の部分で悩むことの多い私には非常に勉強になった。

その夜はDoctoral Colloquium主催者の招待で、シティセンターのアイリッシュパブに行き、陽気なアイリッシュ音楽が流れる中、シーフード・チャウダー(絶品!)やアイルランド風(?)フィッシュ&チップスに舌鼓を打ちつつ皆と交流を深めた。

そして翌日からメイン・カンファレンスが始まった。私の発表は最終日。つまりそれまでいろんな人の発表を聞いて、自分の発表内容を修正できるということである。渡航前に細田先生にお付き合い頂き、発表の予行練習は行った。その際に指摘して頂いたスライドの修正点は既に直していたが、それでも細田先生からは「ギリギリまで直すことになるよ」と予言されていた。またもや細田先生の予言は当たり、私はギリギリまでスライドとスクリプトに手を入れ続けた。特にスクリプトは予行演習で披露したものとはかなり違うものになった。自分の発音しやすい言葉に言い換えて、内容もわかりやすく、よりオーディエンスに伝わるよう工夫したのである。それから細田先生に「プレゼン巧者は最初に遠くから来たことをネタにして笑いを取る」と言われていたので、まるでお笑い芸人のように夜な夜なネタを絞った。

全部で20件以上のプレゼンを聞き、ライアンエアーとGoogleから来たゲストスピーカーの講演や、計11誌に及ぶマーケティング系学術誌の編集者フォーラムに参加した後、やっと私の出番が訪れた。この頃には多少肝も座っていたが、やはり英語でのプレゼンは初体験ということもあり、ナーバスになっていたと思う。そんな私の緊張を和らげてくれたのは、同じ会場で発表をする他のプレゼンターたちと、英バーミンガム大学ビジネススクールのフィノラ・ケリガン先生だった。ケリガン先生は私の研究分野でもあるエンタテインメント・ビジネスを専門とされている方で、Doctoral Colloquiumで友人になった同大学のベトナム人留学生が親切にもカンファレンス初日に引き合わせてくれていたのだ。私が自分の研究内容を説明すると、ケリガン先生はとても興味を持って下さり、私のプレゼンを聞きに行くと約束してくれた。そして本当に会場に駆け付け、発表前の私の隣に座って「頑張ってね」と励まして下さったのだった。

そのお陰もあり、予想外に落ち着いて初めての学会発表の舞台に立つことができた。練りに練った冒頭のジョークは見事にウケ、まずはオーディエンスを味方に付けた感触があった。その後も、比較的スムーズに話を進め、時々オーディエンスと会話しながら15分のプレゼンを爽快に乗り切ったのだった。

プレゼン後の質疑応答では、海外のオーディエンスならではとも言えるグローバルな視点から様々な意見を頂いた。改めて実感したのは、自分の研究は国際的なものになり得るということである。世界に出せる研究をしているのだという矜持を持つに十分な反応を得たと思う。

もうひとつ、今回の学会参加で手に入れた大きな財産は、自分と同じように博士号を目指して日夜研究を続ける海外の友人たちである。学会最終日の夜に行われたGALAディナーでは、緊張感から解放されて皆大いに盛り上がった。特に私たちのテーブルはハイパーな盛り上がり方をして周囲を巻き込んだのだった。この時の仲間たちとは、定期的にSkypeミーティングをして研究について語り合おうという話も出ている。イギリス人、マレーシア人、ベトナム人、ウクライナ人、アメリカ人、韓国人、ガーナ人などなど、国籍はバラバラだが、数日間の付き合いでここまで仲良くなるかと言うほど打ち解けることができた。

国際学会を経験した人の多くが思うことだろうが、日本の研究者はもっと海外に出るべきだ。日本の中だけで “Knowledge”をこっそり蓄積するなんてあまりにも吝嗇だし、勿体ない。もちろん、海外に出る前に踏むべき手順はある。海外に出せる研究内容かどうかは、まずコツコツと論文を書き、“出口”を作って確認していくしかない。そうやって研究は進歩・発展していくものなのだと思う。それは研究者の成長にも繋がるだろう。私もまた、コツコツと論文を書く作業に戻る。そしてまた、研究成果を世界に発表する出口を作りたいと思っている。

Academy of Marketing ウェブサイト
https://www.academyofmarketing.org/
AM2016は2016年7月4~7日、英ノーザンブリア大学ニューカッスル・ビジネススクールにて開催。

指導教員である細田教授からのコメント

研究者としてのキャリア全体で考えると、博士課程の学生である期間は非常に短く、貴重な時期といえるでしょう。この時期にしか体験できないことが沢山あります。Doctoral Colloquiumに参加することもその一つです。AM 2015はDoctoral Colloquiumが開催されることもあって森川さんに参加をおすすめしました。期待していた以上の収穫があったようですが、それも普段の研究活動と参加に向けての準備をきっちりやってきたご褒美だと思います。お疲れ様でした。

リムリック大学は非常に広く、何と構内にアイルランド最長の河川であるシャノン川が流れていた。

宿舎となった学生寮から会場のケミー・ビジネススクールまでは橋を渡る必要があり、徒歩15分ほどもかかった。

シャンカール教授のワークショップ。事前に自分の論文のContribution statementを書いてくるよう指示されていた。写真手前の後頭部が筆者。(AM2015公式Facebookより)

学術誌の編集者フォーラム“Meet the Editors”。“European Journal of Marketing”誌や“The Marketing Review”誌の編集者の姿も。

フィノラ・ケリガン先生 (AM2015公式Facebookより)

プレゼンテーションを行う筆者

オーディエンス

GALAディナーにて、学会でできた“ハイパー”な友人たちと。